コンピュータサイエンスの新しいデザイン

Web技術の進化は、RSSといったより構造化された情報の普及をもたらした。セマンティックウェブの研究者にとって、RSSの爆発的普及は大きな驚きだったと聞く。これまで彼らは既存のWebページを如何に構造化するかに労力を費やしてきた。しかし、使い勝手のよいインターフェース(つまりブログ)によりユーザは高度に構造化されたWebページを自発的に作るようになった。人がコンピュータに理解しやすい言語を使うことで、コンピュータがより効率よく情報を収集し人を助けることができるようになった。機械がすべてを解釈し人を助けるというこれまでのパラダイムから大きな転回を果たしている。
Winogradのアプローチは、人工知能の分野で同様の転回が必要だったことを示している。人工知能ではフレーム問題が常につきまとう。問題を解決するため実世界をすべて記述することは不可能である。環境を記述する変数に制約をかけ、計算可能にする必要がある。この制約は問題によって異なる。問題毎に制約を明らかにし環境を構築することは現実的に不可能であり、それが人工知能の限界となっていた。とくに人間の知識は、物体の位置関係、形状、距離関係に対し自分の身体との関係を暗黙的に前提了解に組み込んでいる(身体性と呼ばれる)。ドレイファスはコンピュータが理解できるよう身体性を記述するのは不可能だと主張している。あらかじめインターフェースをデザインし、人が積極的にコンピュータとインタラクションする状況を作ることでブレイクアウトの検知と解消を効率化する。
ネットのあちら側の思考法は、人と人、人とコンピュータのインタラクションを積極的に用いる。人の積極的な参加によりコンピュータはより効率的に環境を構築し、よりよく人を助ける。
これらすべてに共通するのは、新しい意味での人とコンピュータの共生である。コンピュータが一方的に人を助けるのではなく、人がコンピュータに理解できる形で情報を発信することでコンピュータがそれを処理できるようになる。人の身体性、あるいは実世界の複雑さなどコンピュータサイエンスのハードプロブレムに対し、人が積極的に助けることでコンピュータが問題を解決する。Emerging Technology 2006においてティム・オライリーは、「Webは人工知能になる」と予言している。それはまさにT. Winogradが考えているだろう意味でコンピュータが知識を獲得するということだと考える。