映画「ライラの冒険」は恐ろしく酷かった

超展開ってやつです。大体始まるやいなや、「世界は(ネタバレ略)、ダストは(ネタバレ略)」と世界設定を説明してしまうところで嫌な予感はして、最初の毒入りワインを飲ませないよう叩き落すシーンで(原作もこのシーンはちょっとひどいけど)もう映画館を出たくなった。後は、登場人物がみんなニュータイプさながらの直感力で状況を正しく認識して話をどんどんすすめていく。
登場人物もいきなり出てくる。気球乗りも魔女もよろいクマも。ファーダーさんが空気なんですよ。正しいマツの枝を選ぶエピソードもなし。だからなぜ魔女が出てくるのかまったくわからない。セラフィナがファーダーを昔恋人だったの、と一言言って終わり。
ライラの苦労もまったく描かれなかった。船底で何日も過ごしていたというエピソードもなし。真理計は速攻で読めていた。
「ライラ」って少しだけ毒を含んでいてそれがこの話に奥行きを持たせているのだけど、それもまったくなし。研究室でライラらが切り離されたダイモンを見つけるシーンもなし。最初に見つけた「引き裂かれた子供」が死ぬシーンも、彼が自分のダイモンの代わりに干し魚を大事に持っているシーンも、それをジプシャンが捨てたのをライラが怒るシーンもなし。あるいは、ライラを売った方がいいんじゃないか、というジプシャンを長が一喝するシーンもなし。いや、どうせちゃんと描けないだろうなぁと期待もしてなかったけど、でも全カット削除はどうなのよ。2時間で全てを描けというのは無理だろうけどさ、ちょっとはがんばろうよ。
挙句ラストは全くどうしようもない。ライラの両親の言い争いもなし。裏切りの話もなし。ライラの最後の決意の部分もなし。そして橋を渡るという描写がない。何が描きたいんだ。原作信者の人とか映画館に放火するんじゃないかと心配してしまうぐらい、原作に魅力を与えていたシーンをすべてぶち切っていた。いやはや。

「裏切りの闇で眠れ」

ストイックさもセンチメンタルさもなく、ただマフィアの内部抗争を描いている。といって銃撃戦ばかりやっているわけではなく、ボスは愛人のためにナイル河ツアーに行こうかと言ってみたりクラブの新人の味見をしてみたり、あるいは主人公の相棒が結婚相手の浮気にブチ切れてみたり、なんかぐちゃぐちゃなのである。
とはいえ、登場人物が即物的だったり欲望に忠実なだけでなく、なんらかの信念や美意識を持って生きている。その底にはヨーロッパの裏社会の複雑さと不安定さ(アラブ系が幅を利かせていたり、ロシアン・マフィアの圧力があったり)が通奏低音のように流れている。
説明もなにもないので最初の方はよくわからないのだけど、登場人物がわかってきて力関係が見えてくると、そんなさまざまなレベルの欲望が結びついてきて俄然面白くなってくる。ストーリーはシンプルだけどプロットがしっかりしているので弛むこともない。
初日の初回に見たのだけど、映画館を出るとぴあの調査員に作品の内容を聞かれた。いきなり聞かれても冷静に採点なんてできないって。そのときは100点満点で70点、5段階評価でストーリーと俳優は5、音楽と演出とあと何かを4と答えました。今思ってもそう外れてないかな。無駄もないしミスもない作品だったと思います。キャストはとてもよかったし。ただ80点台はつけにくいなぁ。