高臨場コンテンツへの3つの疑問

政府主導のユニバーサルコミュニケーションには、超高解像度の映像/音声に加え、触覚・嗅覚といった他の感覚を伝えることで超臨場感を実現するという項目がある。映像に関しては、HDTV以上の映像表現の研究がすすめられている。NHKは8000x4000画素の解像度のスーパーハイビジョンの研究をすすめている。映像が静止しているときには非常に高精細な映像を楽しむことができる。しかし、それはカメラの焦点が合っている前景のみである。背景までも含めた撮影、動きに対する応答性、時間解像度など技術的な課題がある。Blu-ray DiskやHD DVDの映像を見る限り、背景まで含めたフォーカス、レンズ深度が不十分であり、映像が人工的であることに気づいてしまう。表示系および撮像系において技術のブレイクスルーが必要である。

現在制作されるコンテンツには、高臨場感を必要とする映像が減っている。劇場よりもDVDで見られる映画では、人物のアップを多用する傾向にある。ジョージ・ルーカスは次のように述べている。

映画館での売上は第二次世界大戦以降、減少の一途をたどっている。現在も下り坂だし、将来も続くだろう。現在利益を得られるのはテレビとDVDだ。枠組み全体が劇的に変化している。(中略)大画面向けか小画面向けかで、絵の作り方が違ってくる。DVD向けに作る場合、クローズアップを多用する傾向が強く、ワイドショットでもそれほどワイドにしない。私自身はそうした様式的な変化を取り入れるつもりはない。だが、現在映画を作っている多くの若者は、劇場映画ではなくテレビやDVDで育ってきたので、それが映画の作り方に反映されているのだ。私は大画面向けの映画を作るほうが好みで、彼らは彼らのやり方でやっていってかまわない
http://hotwired.goo.ne.jp/news/business/story/20050629102.html

作品自体も小規模化している。大作映画は映像のスペクタクル性よりも事前のプロモーションが成否を決めている。単館上映の映画、とくにハンディカムで撮影したドキュメンタリが増加している。消費者の求めるストーリーも、叙事詩のように複数の人物の世界への関わりを描く大きな物語から、特定の主人公とその周辺の人間の中での出来事に焦点を合わせた小さな物語へと移行している。
映画の演出技法も高臨場感と相容れない。演出はフレームとフォーカスに大きく依存している。これらは長い映像文化の中で作り上げられたものである。特に上手・下手の概念は、ギリシャ時代の舞台劇にまで遡る。これらの演出技法に基づくドラマでは、高臨場感は特に必要ではない。
より多くの収益をあげるハリウット映画、ドラマは、高臨場感のある映像を必要としない。高臨場感を要するコンテンツは、サッカーの試合か大自然を撮影したごく限られたものしかないだろう。HDサイズの動画を撮影するカメラはすでに普及し始めている。しかし、それ以上の解像度の必要性は低いと考える。