マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ (コバルト文庫)

感想書かなきゃ、と延び延びになってました。かなりの傑作。グランスール(令、志摩子、祥子)と身近な男性とのつながりにプティスールたち(由乃乃梨子祐巳)がやきもきする、という共通の筋立てながら、これだけテイストの違う話を作り上げたところに驚き。何よりそこから祐巳由乃志摩子の成長を引き出そうとするところがもう鬼のようです。

妹候補に振り回される由乃は、ロープレの主人公の冒険のようなどたばた顛末の中で、ひとり立ちするきっかけを見せてくれる。これまでは令がいたから由乃は好き勝手できてたし、心臓の病気があったから欲しいものは大体手に入っていた。由乃が一人で外と関わろうとするのは「黄薔薇パニック」が初めてです。多分。

信仰心が自らを罰することと表裏の関係だった志摩子は、肩の力を抜くきっかけを与えられる。「自分が何もしていないように感じ」ているのに、周囲に「何かあったの?」と尋ねられたから、志摩子は笑ったのです。周囲の人間関係(父やら兄やら聖やら)の振幅のつけ方、志摩子のかかわりのないところで聖と乃梨子が会うという設定など、かなりアクロバティック。

レイニーブルー以来の落ち込みを見せる祐巳は、ひとり立ちすること、すなわち自らの中に価値を見出すことを迫られている。それまで祐巳は祥子との関係で自らの価値を決めていたのですよ。それは本当は悪いことではないんだけど、柏木の技によってそれが否定されたように感じる。

はてなのリンクづけから読み応えのあるものを。
http://d.hatena.ne.jp/kurikurimaron/20050708 の「女性の生き方」という部分はかなり鋭いと思います。といって柏木の生き方が正しいわけでもない。それは「僕を倒しても君は勝てないよ」という柏木の言葉に示されてます。

http://d.hatena.ne.jp/lallil/20050707 の「姉妹愛の恋愛性が明らかになった」という下りも鋭い。

いつも感じているのだが、よくマリ見てがエロゲー的世界と重ねあわされて論じられることが多いが、私はマリ見てはエロゲーとは正反対の世界観の上に成り立っていると思っています。特に、思い出原理主義、大事な人との退嬰的関係を、緒雪先生は注意深くかつ何度も否定している。その姿勢は今作でもしっかりと受け継がれています。

新キャラも色々とよいです。特に有馬菜々は、あの由乃を振り回しながらどこか抜けているというすさまじい造形を見事に実現している。まぁ、デコちん+真美ではあるのだが。あと志摩子兄も、適度なちゃらんぽらんさが、父親と志摩子の性格の違いを綺麗につなぐ存在になっている。その辺を踏まえないと、「白薔薇の物思い」はわからないのだと思う。正直私もまだぴんときてないんですけどね。

しかしまー、よっぽど底意地が悪くて(褒めてます)、自らの作ったキャラを冷徹に解体できて、自らの作ったキャラに責任感を持ってないと、ここまで書けないですよ。正直緒雪先生には恐れ入りました。

時間ができたらもう少しマジメに書くかも。