深海大サーカス「不思議の国の1YB3H」

舞浜アンフィシアターで開催された艦これイベント:深海大サーカス「不思議の国の1YB3H」-1YB3H’s Adventures in Wonderland- の8/3夜の部と8/10夜の部に行ってきました。まさに舞台版艦これと言える内容でした。

以下は、いつも詳細なレポをあげてくださる、艦これ速報さんの以下の記事を参考にして記載しています。

kancolle.doorblog.jp

イベント全般の様子はこちらを。以下は演目自体に絞って記載します。

あらすじ(8/3夜)

19時53分。
迷子になったガンビアベイは、海のサーカスに迷い込む。それは深海磨鎖鬼ら深海棲艦たちだった。ピエロに捕らえられたガンビアベイは、深海サーカスに招待される。不思議の国のアリスのウサギに見立てられウサ耳を付けられたガンビアベイは、元の世界に戻るために何かを探しあちこちをさ迷う。

本隊からはぐれた山城、時雨、満潮は、謎の護衛空母(ガンビアベイ)に出くわし、後を追う。3人が気がつくと、そこは深海だった。落ちていたラッパを見つけ、時雨が持つことに。そこに駆逐イ級の群れが襲い掛かる。その後も、軽巡ツ級、雷巡チ級、潜水カ級ら襲い来る深海棲艦を迎撃するが、数で攻める深海棲艦にやがて追い詰められる。時雨は友軍要請のラッパを吹き、駆けつけた川内型3姉妹の支援により突破する。

そこに深海磨鎖鬼が現れ、君たちも知るあの海峡へ誘うと言う。スリガオ海峡の深海で、3人は戦艦棲鬼に遭遇する。第2の友軍である金剛型4姉妹が到着し共に撃退した後、ついに海峡夜棲姫に邂逅する。全滅の危機を迎える艦娘たち。そこに無良提督と第六駆逐隊ら水雷戦隊が到着、からくも打ち倒す。

ガンビアベイが探し物(キービジュアルで満潮が肩からかけていた浮き輪さん時計)を見つけて時空は戻り、山城、時雨、満潮はもとの世界に帰ってくる。深海磨鎖鬼は言う。過去を、悲しみを直視してこそ未来はあると。

戦闘表現

昨年度の氷祭りでは、水上での戦闘、艦娘の活躍が描かれていました。本演目では、エアリアルにより、立体的に戦闘が展開されます。特に布でのエアリアルにより、戦艦棲鬼の大きさ、強さを表現しているのが素晴らしかったです。中空の赤い布に1名の演者が入り、そこから四方に赤い布を降ろし、巨大なフォルムを再現していました。

海峡夜棲姫の表現もよかったですね。黒と白の二対の棲姫が球形のフレームに入り、外へ布を広げてその大きさ、影響力の強さを表現していました。背後のスクリーンには多数の彼岸花が揺れていました。

エアリアルは深海での戦闘も表現していました。最後の友軍で客席中央の通路に現れた六駆の暁らは、天井から垂れた青い布に登り、ステージに向かって攻撃していました。客席を巻き込んでの立体的な戦闘は見ごたえがありました。

内容とテーマ

振り返るに、過去の悲しみを大事にして今を生きる、という艦これが一貫して描いてきたテーマを再確認させる内容でした。艦これのコミック「いつか静かな海で」は現代の艦艇と結びつけて描いていたし、新春JazzでもToshIがそのメッセージに共感して参加を決めたというコメントを残しています。

本演目は、深海側を巻き込み、ゲーム内の死闘を再現することを通じて、そのテーマを描こうとしていたかと思います。現実で最も苛烈な戦闘を強いられたひとつである西村艦隊の片割れを主演とし、ゲームでも転換点の一つとして過去を乗り越えることを強く打ち出したスリガオ海峡の戦いをクライマックスに置いたのも、自然な流れと言えます。

大越さんらによる艦これBGMはもうひとつの主役とも言える効果を持っていました。「モドレナイノ」の悲しみ、「戦争を忌むもの」の勇壮さ、レイテ海戦のボス曲の絶望感は、舞台の展開を強く後押しするものでした。

サーカス、不思議の国のアリスという見立て

現実でも、西村艦隊が成し遂げたゲーム世界でもない、別の時空を艦娘を登場させて描くために、サーカスという舞台装置、不思議の国のアリスという見立てが必要でした。深海磨鎖鬼はまさにサーカスのクラウンとして舞台を進行させ、護衛空母でありながらタフィー3として太平洋戦争の趨勢を変えるまでの奮闘をしたガンビアベイは、トリックスターとしてウサギの配役をこなしました。最後、ガンビーが浮き輪時計を見つけたことで時空が戻るのだけど、君たちそんな重要な役回りだったの?w ただ、ウサギ役は他の回では秋月、ウォースパイト、瑞鶴が務めたようで、特にこだわりはなかったみたいです。

ともあれ、物語の舞台装置、および立体的な戦闘を表現する技術の2点を併せ持つサーカスを用いた発想は何気にすごいと思います。

この世界の扶桑は?

後段の情報も含めて修正。

前段作戦で、双眼鏡で何度か時雨を見ていたのですが、彼女は改二の髪飾りをひとつだけつけているように見えました。演目中何度も不幸だわを連発する山城は、折りに触れ、ここにいない扶桑に語りかけます。

もしかしたら、この世界では扶桑はとうに喪われているのかもしれないと思いました。

ただし後段で確認した限り、冒頭で山城は「はやく姉様に合流しないと」と言います。第2の友軍は、金剛型4姉妹ではなく、残りの西村艦隊の4人でした。この友軍について、公式はtwitterで次のように言っています。

後段公演では、劇中後半部で登場する友軍艦隊の編成が変わります。不思議の国に迷いこんだ1YB3Hの三隻、その救援に現れる幻のような四隻の友軍艦隊。

演目の最後、山城、時雨、満潮の3人だけが残されており、山城は「姉様ありがとう」と別れのような言葉を口にします。

深海磨鎖鬼の最後の言葉は、観客だけでなく、山城ら西村艦隊の片割れに向けられたものなのは間違いありません。そのことからも、西村艦隊の残りは、三人が不思議の国に迷い込んだときには喪われていたのでしょう。西村艦隊の7隻が海峡夜棲姫と対峙しているとき、山城には何か気づくものがあったのかもしれません。「銀河鉄道の夜」のジョバンニのように。

さらに追記。Wiki海峡夜棲姫に以下の記載があります。

「壊」状態になると艦橋と思わしき建造物が消失し、人影は山城に酷似したひとつのみに変化する。これは、扶桑が先に沈没し、そのおよそ1時間後に山城が沈没したという史実スリガオ海峡夜戦の戦闘経過を、再現した描写と思われる。 
記録によれば、扶桑は午前3時10分に船体が真っ二つに割れて沈没。その時、山城はいまだ健在であった。その後、山城は苛烈極まる攻撃を受け艦橋崩落しながらも突撃を敢行。満身に無数の砲弾を浴び艦全体が火の海と化し、さらに命中魚雷4発によりついに航行不能に陥るも、「ワレ魚雷ヲ受ク。各艦ハワレニ省ミズ前進シ、敵ヲ攻撃スベシ」「ワレ航行困難二陥レリ、各艦ハ扶桑艦長指揮ノモト、レイテ湾二突入セヨ」と信号灯で後続艦を叱咤激励し続けた。
そう、この命令文でも分かるとおり、山城は後続艦の最上を扶桑と思い込んでおり、本当の扶桑がすでに落伍、沈没していることを全く知らなかったのである。

山城が、すでに喪われた扶桑に向けて、ありがとうと言えたこの世界もまた、ひとつの救いなのかもしれません。

そんな悲しい物語を内に秘めつつ、サーカスを媒介にエンターテイメントにして見せた演出は、これまでのリアルイベからさらに踏み込んで艦これ世界を描くことに成功していると思うのでした。