メディア芸術祭シンポジウム

アニメ部門のをやってました。大賞は原恵一監督の「河童のクゥと夏休み」、優秀賞は山村浩二監督の「カフカ 田舎医師」。あと功労賞を辻真先先生が受賞されていました。鈴木伸一さんが進行で1時間半ほど行われました。面白かったトピックをピックアップしておきます。

「クゥ」のきっかけ

原:「クゥ」を映画にしたいと最初に考えたのは20年ぐらい前。仕事の合間にアイデアを書き溜めていた。夢がかなってしまったような感じ。できたときは自分の中から何かが抜け落ちた気分。自分にとってこの作品を創り上げることが最終目標だった。これからの先のことは全く考えられていない

他の仕事をやりながらも常に「クゥ」のことを考えていた。これをつくるための練習もしていた。クレヨンシンちゃんなどでアイデアを使ってしまったり。「オトナ帝国」のクライマックスのタワー上るシーンは、「クゥ」の東京タワーにのぼるシーンがもと。そのときは何も考えてなかったが、「クゥ」を作ることになってちょっと困ってしまった。でも開き直ってそのままにした。タワーが出てくるのが自分の記号だと思えばいいやと。

「田舎医師」のきっかけ

山村:カフカ20代のころ読んでいた。長編は読んでないけど。ロシアの、切り紙アニメのユーリさんと飲んでいて、カフカなんて合うんじゃないかと言われて、気になっていたデフォルメされた絵は、原作読んだ時点から人が伸びたり縮んだりするイメージがあった。医師の心の声をどう描くかが問題だった。狂言や能の舞台を見ると、小道具を持っている人がずっといたりする。そういうのが日本の形式美。影にいなければいけないのが堂々と舞台にいる。同じように心の声を実体化して描くことにした。狂言の方法を思いついて、いけると思った。作中、医師らのキャストはみな狂言人間国宝の人の家族。

山村さんの「クゥ」への感想

山村:妖怪たちの使いどころが面白かった。アイデアが練られている。妖怪が生き生きしている。日本人は単一民族として考えられているけど、妖怪が別の民族のように描かれている
原:まさに同じことを考えて作っていた。
山村:マイノリティの対象として伝説の動物を描いているのが面白い
原:20年前から考えながらふくらませていった。最終的には少数民族や親子やいろんな要素がついていった。それを1本の物語にするのがとても難しかった。ひとつのモチーフが飛び出さないようにしなければいけなかった。

辻さんの「クゥ」のシナリオへの感想

辻:極めてよく出来ている。わかりやすい、けど複雑な味わいがある。いろんな問題が伏在している。それを静かな感じで描いている。マナーと言うか姿勢を持って、コントロールしている。
んーと思ったのは、ラスト、物語の着地点。もっと手前だと思った。あれは構想のうちからあったのか。
原:初期の段階で思いついていた。当時思いついた時と比べ、今はその場のイメージが変わっていて悩んだけど、結局そのままでいった。
辻:借り物の話ではなく自分で責任をもってちゃんと着地しているのならいい。作者として河童に関して落とし前をつけている。愛情をもって材料を接したのだろう。
一言で言うと、「負けた」と。ずっと脚本らの仕事をしてきたので、作品を見るときも次はどうくるかいちいち勝負しながら見ちゃう。でも「クゥ」では真ん中から後半はそんな気はなくて、一人の客として見ていた。最後になって、え、と思って、勝負の虫がでてきたけど、負けた

自転車操業と煮詰めること

原:辻さんにお聞きしたいことがあった。辻さんは監督らとの打ち合わせで原稿を持たずにやってきて、さあどんな話を書こうか、とその場で書き上げて渡していったという伝説のような噂があるが、それは本当?
辻:当時はすべて生放送だった。30分の番組は30分で書かないといけない。客の反応をリアルに考えながら書いていた。一番速かったのは花登筺さん。1.5時間で1本。5人でマージャンしてて、抜けた半荘1回で書いた。次は佐々木守さんと自分が似たり寄ったり。佐々木さんは柔道一直線をこだまで書いた。大阪で呼ばれて、向こうについて渡した。

サザエさんは長い。7分だけど40枚かかる。でもゆったり見える。1-2時間かかる。もしかしたらサザエさんでそのことをしたことがあるかも。喫茶店でその場で書き上げたことは確かにある。
原:締め切りがあることは、時間のなさがつらいけど、凝縮された中から生まれてくるものも確かにある。
辻:そう思わないとやってられない。書くまでの頭の中の煮詰めるのが時間がかかる人もいる。井上ひさしさんは、書き始めるとすごく速いけど。ジャングル大帝は書くまえに止めちゃった。
原:留まっちゃったら終わってしまうというのもある。「クゥ」が時間がかかったというのは締め切りがなかったからというのもある。