世界の何をconfigするのか

会合でモロッコにいます。この文章を書いたのは夜中の2時。英語で変なプレゼンする夢を見ました。出張中だからか、ハシシでも吸ったか、ともかく面白かったので内容を記しておきます。

コバルトブルーの海が見える会場だった。演壇では高名な画像符号化の研究者がえらい壮大な話をしていた。私は後ろの方の席で、うつくしい海を見ながらぼうっとそれを聞いていた。講演が終わり、うだうだと周囲と話をしていると、進行が次の講演者は私だと呼んだ。私の発表は次の日の予定だったが、他の講演者の都合で順序が変わったらしい。
発表の準備を全然していなかった。プレゼン資料を作った憶えは確かにあるが、どんな内容を喋るのか全然判らない。ともかく演壇にあがり、前置きを引き伸ばしながらどうまとめようか必死に考える。進行がそろそろ始めろとせかす。
最初数枚のプレゼンには、さまざまな進化と情報の爆発の絵が描かれていた。それからゼノンのパラドックスとかライプニッツの話が出ていた。どうやら、過去の私は速度について話したかったようだ。こんな壮大なところから話を始めて、どう風呂敷たためばええねん、と過去の自分を呪いながらプレゼンを続けた。もうしどろもどろだ。進行が、ちゃんと準備してこいよ、と白い目で見ている。聴衆が憐れみの目で見ている。進行が、ライプニッツって誰ですか、とか聞いてくる。お前そんなことも知らんのか、と思いながら返答する。
発表がほとんど行き詰ったときに、さっきの高名な研究者が一つだけ質問と言ってきた。(なぜかもう水着姿になっていた。後の発表を聞かず泳ぎに行くのだろうと思った)。それが、"What should we configure on the earth?"だった。発表をしていた私は答えられなかった。進行に発表を打ち切られ、一緒に会議に出ていた同僚に慰められた。

夜更けに目覚めた今の私は、その質問に答えられる。"verocity"だ。

情報は爆発し、あらゆるものは形を変えていく。ラプラスの悪魔にあるように、時間発展を高次に記述できればずっと先の未来まで予見できるかもしれない。しかし人にはそんな悪魔のような読みはできない。
人は、現在と過去の状態を比べ、その差異を計測し、そこからあるべき姿を導出してきた。そしていつも問題になってきたのは、あるべき姿が何時実現されるかという時間だった。差異と時間の比、つまり速度を見積もることが、重要だった。
確率的に分布するいくつかの状態の中から過去と未来ふたつの状態を設定し、それがどれだけの時間で変動するかを推定する。時間発展する状況をどう分節化(言語化)するか。連続する相のうちどこを切り取るか。それが世界をconfigするということなんだろう。茂木健一郎先生の言う偶有性も同じルールに属する。期待する速度と実際の速度の差が、報酬を生み、リスクとなる。

速度の問題は、文理関わらずあらゆる学問に適用される。いつか書こうと思っている話から一つ例をとりあげると、メディアの進化がある。マクルーハンのテトラッドはメディアの認知に速度がどれだけ重要かを示唆している。新しいメディアがもたらす新しい体験はすぐにはユーザに受け容れられない。ゲーム機の形をしていながら(クタたん曰く)価格も思想もゲーム機ではないPS3が迷走するのは自明だった。


未来の状態をどれだけ精確に記述できるかは、変動の誤差の少なさと、時間の誤差の少なさ、両方を考慮しなければならない。しかし、人は後者には目を向けるが、多くの場合前者は顧みられない。直近の過去から未来を予測しても、過去にぶれがあれば未来を効率的に記述できない。

最初に出てきた研究者が、今回の会合であるアプローチを何度も口にしている(これは夢じゃなくリアルでの話)。以下は動画符号化の話。復号したらすぐに再生できるように動画像を符号化するとき、普通直前のピクチャとの差分を符号化し続ける。差分を符号化する+差分を符号化する+…と続くと、符号化効率は下がる。この研究者が言ってたのは、常に直前との差分を符号化するのではなく、ずっと昔の確実に符号化されているピクチャとの差分も交えて符号化することで符号化効率があがる、ということだった。図で書くと


P P―P P P―P
/ / / /
I←P←P←P←P←P と直列に符号化するより、 I――――P と入れ子型に参照する方が効率がいいらしい。
ここには一つのパラダイムシフトが入っている。確からしそうな予測を連ねるよりも、確かな過去に基づいた予測と直近の予測とを組み合わ、予測の段数を減らす方が効率がいい場合がある。
ベタな例だと、ゲーム機の表現力向上が体験の向上だと信じたPS3がインターフェースとテレビの表現力の進化の遅さを考慮しなかった結果大きなコストを払っていること、ゲーム機の表現力向上とインターフェースとがシンクロしていないと体験は向上しないことに気づき"枯れた技術の水平思考"という過去に立ち戻ってゲーム機の未来を予測したWiiが大きな成果をあげていることがあげられるだろう。


まとめる。

  • 世界をconfigするとは、ある時間で切り取り(時間発展する状態を分節化し)、そこでの時間と状態を扱うことである。そこでは速度が問題になる。
  • 予測があやしいと思ったら、変動の誤差だけでなく時間の誤差も考慮する。時にはずっと前の過去からの予測も交えることで性能が向上することもある。