One Dimensional Society

梅田望夫氏はオープンソース社会(OSS)が生み出す知について自身のブログで繰り返し紹介している。梅田氏はOSSの根底にあるものとして以下の2つをあげる。

ハッカー倫理: レヴィーは『ハッカーズ』の中で、以下のものをハッカー倫理だと述べる。1) コンピュータへのアクセス、加えて、何であれ、世界の機能の仕方について教えてくれるものへのアクセスは無制限かつ全面的でなければならない。実地体験の要求を決して拒んではならない。 2) 情報はすべて自由に利用できなければならない。 3) 権威を信用するな──反中央集権を進めよう。 4) ハッカーは、成績、年齢、人種、地位のような、まやかしの基準ではなく、そのハッキングによって判断されなければならない。 5) 芸術や美をコンピュータで作りだすことは可能である。 6) コンピュータは人生を良い方に変えうる。
アテンションエコノミー: 金銭や権威を目的とせず、他人とくに同じ興味を持つ人からの注目を受けることを最大の報酬として需要と供給の活動を行う経済システム

重要なのは、この2つの行動原理が一部のコンピュータおたくのものではなく、ある世代以下の多くの人の規範になっている点である。梅田氏の言葉を用い、このような世代を「ネットのあちら側」、そのような行動原理を持たない世代を「ネットのこちら側」と呼ぶことにする。表はネットのこちら側とあちら側の思考法(mindset)の違いを表したものである。

ネットのこちら側 ネットのあちら側
価値のある情報 “正しい“情報 個々の結びつきを強める情報
個人の発信する情報 ノイズ、便所の落書き 発信者の属性に沿って理解
他者の扱い 話せば分かる 関係ない他者は無視
注目を浴びる人 Moderator: “正しい”情報を発する人 Hacker, Participant: 情報をremixする人
論理性、プレゼン力、問題発見 探索力、人付き合いのうまさ、場所作り
行動原理 社会全体に認められること:金儲け、権勢欲 仲間に認められること:Attention Economy
多様性」の意義 ある大きな問題に対し、異なる損得 互いに対立しない小さな
勘定で判定する人がいること 問題を提起する人がいること
コンフリクト解消 弁証法 統計的
相手世代からの印象 「批判能力なし」:既得権益とのしがらみ、マスコミ重視 「蛸壺」:他者と関わらない、バーチャルに囚われている
自世代の強み リアルを知っている、他者との意思疎通、 ネット・散逸する情報の扱いに精通している
正しいものを正しく伝える 情報を正しく判断できる

ネットのこちら側とあちら側とでは、情報処理能力と問題解決能力が本質的に異なる。ネットのこちら側は、ネットの情報にはノイズが多い、消費者の作るコンテンツにどれだけの価値があるのか、ネットのおたくは対話しようとしない、と思う。ネットのあちら側の人間は、無数の情報から自分の役に立つ情報を選び取るリテラシーを持つ。自分の役にたたない情報であっても他の誰かの役に立つならそれは意味のある情報である。ネットのあちら側は弁証法的な考え方に頼らない。つまり2つの対立する概念をつきあわせ解決策を見つけるということを積極的に行わない。その代わり、他人の問題解決、ブレイクアウトの解消を再利用することを考える。
ネットのあちら側はブレイクアウトとその解消法を共有するリテラシーと思考法を持ち、Webの技術の進歩はその記述を実現する。アテンションエコノミーはそれを善循環させる報酬系となる。ブレイクアウトの共有により効率的に問題を解決する。重要になるのはそこに参加し情報を共有することである。
これらは、優位を保つために他者を締め出す、技術もしくは利用者を囲い込む、情報を共有する前にテンプレートにあうよう記述しなおす、対立する概念をつき合わせ弁証法的に解決を得る、といったこれまでの合理主義をベースにした方法論とは全く異なるパラダイムにある。H. Marcuseが1964年に”One Dimensional Man”で予言したこと−”Positive thinking and its neo-positivist philosophy counteract the historical content of rationality. (in Section 9: The Catastrophe of Liberation)” が正に今起きている。