システムが集約するものは理解のプロセス

Web2.0”を提唱したティム・オライリーは、「多くの人が使うほどシステムが便利になる」という特性の重要性を指摘している。Googleの検索技術の中核であるPageRankは、この概念を具現化した1つの技術である。
PageRankの発明者Larry Pageの指導教官だったT. Winogradは、PageRankのベースとなる人とコンピュータのインタラクションを提唱している。Winogradはもともと自然言語解析の権威だったが、後に人工知能の限界を自ら示し、人とコンピュータの関わりの中で意味を形成していくアプローチをとるようになる。彼自身がその変遷の過程を記している。
人と人は、互いに持っている歴史背景に加え、会話のインタラクションで生まれる共通認識によって相互理解に至る。Winogradは前者をコンピュータが処理できるようには完全には記述できないことを示し、後者に着目した。そして、解釈学のガダマー、現象学ハイデガー、生命システム論のマトゥラナの成果を元に、互いに密接なインタラクションを行う状況(被投性 / 構造的カップリング)と、対象を理解しなければならないものと意識すること(ブレイクダウン)が、理解に至るのに必要だとした。
Larry Pageは次のように述べている。「検索は、何が欲しいのかをユーザーがコンピュータに伝える瞬間だ」。すなわち検索画面に向き合う状況が被投性を持つ環境、検索語入力がブレイクダウンである。PageRankの真の達成は、ブレイクダウンを集約することで意味形成プロセスを統合できるのを示したことにある。