物語を駆動させるためのデザインその1

2ヶ月前、短編を書く機会があり、小説の構造がどうあるべきかを考えたことがあった。これはそれをまとめたものである。啓蒙ではなく、指南でもなく、ただ自分の方法論を定式化したものであり、他者の作品になんら働きかけるものではない。
結論についてはその2に書く。その1はそこに至るまでの思考である。
1) 他メディアと比較した小説の特性
映像との違い:映像は、ある瞬間の事象、切り取られた空間情報で完結している。小説には前後関係がある。ある文章はそれ以前に配置された文章を前提に読まれる。また文字メディアは映像に比べて単位時間当たりの情報量がとても小さい
音楽との違い:音楽では、連続的に時間が流れる。曲の展開によってテンポや拍の変化があるが、基本的には直前のリズム・小節を受けて次の旋律が展開する。曲形式、和音、拍のパターンなどあらゆる単位で音楽の変化は漸次的である。文字メディアは瞬間的に流れる時間、精確さ、全体性を変化させることが出来る。小説は語りを持つ。また異化というプロセスを持つ。

2) 小説の扱う情報量について
近代小説、つまりドンキホーテ以降、小説が描く対象とする全ての世界と、語り手の見ることができる世界は異なる。異なる立場の語り手をつなぐことで全ての世界をカバーしようとするのが全体小説、外の世界については保留しておいてミニマルな関係(家族など)に絞って語ったのがミニマリズムだ。作者の地平と読者の地平をどう繋ぐかが重要となる。

3) 地平の移行
顕現(エピファニー)という言葉がある。ささいな出来事、他愛もない情景に神秘的な何かを感じることである。対象は異化され、語り手の立つ地平はより高い視点で見た地平へと劇的に転換する。情報量の拘束条件、時間軸、コンテクストの転換という小説の特性を最も端的に形にしたのが顕現である。顕現を表現するための要件は次の通りである。
a. 最初に提示される、出発点での語り手の地平は限定されている
b. 語り手に、異質な何かが提示される
c. 異質な何かを通して、語り手は異世界の地平を垣間見る
d. 語り手は、異世界の地平を通じ、語り手の地平に新たな意味を与える

出発点の地平における論理・視座と、異なる世界の論理・視座とは、それぞれ別のオペレーションとして動作している。語り手と異質な対象とのインタラクションによって二つのオペレーションは同時に作動する。初期の地平におけるオペレーションは異化され、二つの意味を持ちながら駆動する。この考えは、オートポイエーシスの思想に基づいている。駆動するオペレーションはそのまま読者の立つ地平をも揺り動かす。読後感とは、作品内でのオペレーションに連動して、読者の体験に新たな意味が与えられた状態を指す。

小説の手法は、aからc、つまり序破急を効率的に記述することにある。