シオドア・スタージョン

id:suikyoさんのところからシオドア・スタージョン FAQ

1. 本当にみんな,シオドア・スタージョンについて良く質問するの?
あー,いいえ.

実際、スタージョンについて何かを言うのは難しいです。
7/1に三省堂で開かれたトークショーの内容も、なんとも歯切れの悪いものでした。大森望柳下毅一郎スタージョンのエピソードの紹介はするけど、彼の本質がどこにあるのかは語ろうとしない。中原昌也に至っては、ファン代表と言いながら本は読んできてないし、石田衣良とケンカしている(wというネタでいじられた後は眠そうにしているし、何をしにきたのかわからない。

追記:「中原昌也&石田衣良&ケンカ」のキーワードで来る人が多いので補足。確か石田が中原にお前の小説はぬるいと言って、中原がお前のこそぬるいと言い返した、という話だったと思う。

スタージョンってこんなやつである。
・イケメン
大森望が若いころの写真を持ってきてたけど確かに俳優のような端正な顔でした。ハインラインは、「こんなに美しい男性に会ったことはない、pretty boyだ」と曰ったとか。うほっ。
・変人
人ごみの中で何の脈絡もなく突然バク中したり。そりゃーもう何考えているかわからない人だったらしい。変人じゃなければ、作品ももっと評価されたのに、というのが向こうの批評家の意見らしい
・イヤなやつ
ファンジンで舞台にあがって自分の作品で出てきた歌を奥さんに歌わせたり。
・飽きっぽい
さまざまな職業を経験しているがすぐに止めてしまう。エージェント(「旅する巌」はその時の経験が反映されているらしい)の時なんかも、芸術論から技術論まで作家に親身になってアドバイスしていたそうだが半年ぐらいで止めてしまった。

スタージョンの作品も本当にとらえどころがない。頭はいいのに厨だったり、こっぱずかしいほど愛を押し出すかと思えば冷徹な視点で作品を書く。最新刊輝く断片 (奇想コレクション)をとっても、イケメンなのにキモメンの気持ちをあんなに書けるのは不思議。短編集「一角獣・多角獣」でさるアメリカの評論家はこんな序文を寄せている。

この本を読む前に、あなたは静かに(静かでなくてもいいが)発狂するがよろしい。それがこの本を楽しむ唯一の方法である

内面をどろどろに描く書き手の自我が肥大しているだけの心理小説なんかは容易に内容の想像がつくわけで、そんなのとは別次元のわけわからなさなのである。

ただ、彼と彼の作品に影響を及ぼしたと思うエピソードがある。
彼は若い頃ある有名サーカス団の空中ブランコ乗りになるのが夢でずっと身体を鍛えていたのだが、病気で心臓に疾患を患いその夢が断たれたそうだ。また軍隊の入隊もその疾患のために免除されてしまったそうだ。

彼の作品に出てくる登場人物の自我の喪失と非社会性は、どことなくサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」に出てくるシーモアのそれに似ている。アメリカの夢と社会からこぼれた者*1は静かに狂っていくしかなかったのかもしれない。

スタージョンに興味のある人は、FAQにもあるように、本を買う前にまず古本屋で「人間以上 (ハヤカワ文庫 SF 317)」を立ち読みしてみることです。それも第2部「赤ん坊は3つ」だけ。

*1:まさに、"Catcher in the Rye"の、ライ麦畑の外で網を張って助けてくれる誰かがいない、という話と同じだ。網がないという話は、現代の日本でこそ切実な問題かもしれない